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最高裁判所第三小法廷 昭和23年(オ)128号 判決

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告理由は末尾添附別紙記載の通りでありこれに対する当裁判所の判断は次の如くである。

第一点について

自作農創設特別措置法による農地の「買収」は政府が行うのである。市町村農地委員会は、買収の基礎たる「農地買収計画」を定め(同法六条一項参照)、都道府県農地委員会は、これを承認するのであるが(同法八条)、右各農地委員会は、農地の「買収」そのものは行わない。農地の「買収」は、都道府県知事が、右買収計画に基いて、農地所有者に対し、買収令書の交付(又は、これに代わるべき公告)をすることにより行うのである。(同法九条)従つて、市町村農地委員会が、農地買収計画を作成し、都道府県農地委員会がこれを承認しても、それだけでは、政府のなすべき買収の基礎たる「農地買収計画」が確定するにすぎないのであつて、未だ農地の「買収」は行われたことにならないのである。なお、同法第一二条第一項は、「都道府県知事が、第九条の規定による手続(即ち、買収令書の交付、又はこれに代わるべき公告)をしたときは、令書に記載し、又は同条第一項但書の規定により公告した買収の時期に、当該農地の所有権を政府が取得する」旨規定しており、他に、政府が右農地の所有権を取得することを定めた規定はない。従つて、右買収令書の交付、又は、これに代わるべき公告のなされない限りは、未だ買収があつたことにならず、当該農地の所有権が政府に移転しないこと明白であり論旨は理由がない。

第二点に付て

本件では被上告人は「土地所有権の移転」を請求して居るのではない。被上告人は、さきに、本件土地につき、被上告人先代一馬及び被上告人のなした上告人に対する所有権移転登記が虚偽の意思表示に基くものであつて、その所有権は当初より上告人に移転したことなく、現に被上告人に属することを理由として、上告人に対し、所有権移転登記手続を請求しているにすぎない。上告人の援用する農地調整法第四条は、当事者の合意により農地の所有権を移転することを制限しているが、本件のように単に土地所有権の登記名義の回復をすることを制限したものではない。その他に、本件のような、土地所有権の移転登記をすることを制限した規定は全然存しないから、論旨は理由がない。

よつて上告を理由なしとし民事訴訟法第四〇一条第九五条第八九条に従つて主文の如く判決する。

以上は当小法廷裁判官全員一致の意見である。

(裁判長裁判官 長谷川太一郎 裁判官 井上登 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 穂積重遠)

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